樹体内には引張と圧縮の内部応力が発生しており、樹木の形態形成および姿勢制御因子として重要な役割を果たしている。樹体を風雪より守る、この絶妙な力学的バランスの源は、樹木繊維の細胞壁の微細構造にあると考えられる。本研究では、これまで手つかずであった、応力変動下におけるナノ領域の構造、特にセルロース結晶の応力状態の変化を動的測定することにより、応力発生機構の解明をめざした。セルロース結晶のひずみと木部表面のひずみを同時に正確に測定する装置を試作して、放射光実験施設(SPring8)において実験データを得た。得られたデータを解析した結果、セルロースが成長応力開放直後に縮むことが明らかになった。またそのとき、結晶が縮む量は、表面のひずみとほぼ一対一の関係であった。従って少なくとも、成長応力にはセルロース結晶が大きく貢献していることが実験的に明らかになった。 同様の実験をこれまでに2度繰り返しおこなった。結果は同じ傾向であるが、徐々に実験の精度が上がり、いまのところ応力解放時にセルロース結晶が縮むことには確信が持てるようになった。ただし、実験の過程で、セルロース種によってセルロース結晶の(004)面の面間隔が植物種によって異なることが分かってきたため、セルロースの(004)面が縮んだといっても、もともと伸ばされていたから縮んだのか(引っ張り下にあった)、安定状態にあったものが縮んだのか(何らかの影響(他の壁成分の影響とか)で圧縮状態となった)のか、未だに不明となった。このことは植物細胞壁内でのセルロースの応力状態を考える上で非常に重要な課題であり、次年度引き続き検討する。
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