木質化細胞壁を構成する成分のうちで、リグニンは複雑な化学構造を持つ。そこで、本研究では、複雑な構造を持つリグニンの研究用プローブとしてきわめて重要となる、リグニン中の特定の構造を認識するモノクローナル抗体を作製することを目的とした。リグニン中で比較的割合の多い3種類の結合様式(8-0-4型、8-5型、8-8型)を含むモデル化合物をp-アミノ馬尿酸を介して牛血清アルブミンと結合させ、複合体を調製した。それらを抗原とし、モノクローナル抗体を作製した。その結果、8-0-4型オリゴマーを用いた場合に4種類、8-5型2量体を用いて8種類、8-8型2量体を用いて8種類、合計20種類のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞を確立することに成功した。 酵素結合免疫吸着法により、各ハイブリドーマのクローンの産生する抗体の反応性を調べた結果、8-0-4型オリゴマーの場合は抗原には反応するが、p-アミノ馬尿酸-牛血清アルブミン複合体には反応しないことが明らかになった。8-5型及び8-8型2量体を用いた場合、抗原には反応するが、p-アミノ馬尿酸-牛血清アルブミン複合体だけでなく、8-0-4型2量体にも反応しないことが明らかになり、抗体が結合様式の違いを認識している可能性が示唆された。 得られたモノクローナル抗体によってヒノキ、ミズナラ、ポプラの分化中木部を免疫金標識した結果、それぞれの抗原に対して少なくとも1クローンの抗体がリグニンの沈着途中及び沈着後の細胞壁に反応し、その反応部位は用いた抗原により異なっていた。従って、これらの抗体が細胞壁におけるリグニン化学構造の違いを識別している可能性が示唆された。今後、抗体の特異性をさらに詳しく調べることにより、今回作製したモノクローナル抗体がリグニンの複雑な構造やその形成過程を解明するきわめて有効なプローブとなると期待される。
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