研究概要 |
本研究課題では、モノリグノールの生合成におけるメチル基供給機構の存在意義を探るべく,テトラヒドロ葉酸(THF)が重要な役割を果たすC1代謝経路の木部組織での働きに着目した。木繊維,師部繊維細胞や道管要素では,その木化に伴い化学構造の異なるリグニンが合成される。これは,リグニンの重合反応に使われる主要なモノリグノールであるコニフェリルアルコールとシナピルアルコールの存在比率が,組織や細胞ごとに異なっていることに由来すると考えられる。本研究課題では,CAとSAの組織・細胞特異的な合成や細胞間の輸送にC1代謝経路が重要な意味を持つとの作業仮説を立て,これを証明することを目的とした。 代謝経路に関わる6つの反応段階に関わる7つの酵素,即ち10-ホルミルTFT合成酵素,セリンハイドロキシメチル転移酵素,メチレンTFT還元酵素,メチオニン合成酵素,S-アデノシルメチオニン合成酵素,カフェ酸/5-ヒドロキシカフェ酸-O-メチル転移酵素及びカフェオイルCoA-O-メチル転移酵素を解析対象とした。ポプラゲノムの塩基配列情報(http://genome.jgi-psf.org/)を参考に,各々の酵素をコードすると思われる遺伝子の断片をPCRによって交雑ヤマナラシからクローニングした。次に,これらクローニングしたDNA断片の塩基配列情報を基にプライマーを設計し,若い交雑ヤマナラシの個体の根・茎(皮層と木部を含むそれ以外の組織)・葉から調製した全RNAを用い,RT-PCRを実施すること,各組織における大まかな遺伝子発現をモニターした。その結果,カフェ酸/5-ヒドロキシカフェ酸-O-メチル転移酵素及びカフェオイルCoA-O-メチル転移酵素の遺伝子の発現についてのみ細胞の木化との相関が見られた。更に,各遺伝子の細胞毎の発現をモニターする目的でin situ hybridizationによる解析を試みたが,手技の未熟さもあり明確な結果は得られなかった。
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