スギの木部には、ノルリグナンと総称される二次代謝成分が含まれている。スギのノルリグナン生合成酵素及び遺伝子は単離されておらず、生合成経路に不明な点が多く残されている。本研究は、スギのノルリグナン生合成に関与する酵素の遺伝子を単離し、その遺伝子がコードする酵素タンパク質の特性を解析することにより、ノルリグナン生合成酵素を特定することを目的としている。 スギを伐採し丸太を室内に静置すると、伐採後20日目から41日目にかけてノルリグナンの一つであるアガサレジノールが辺材中に蓄積する。昨年度までに、41日目の辺材で優勢に発現している遺伝子を収集・解析し、5種の酵素がアガサレジノールの生合成に関わる可能性を明らかにした。その中から、全長cDNAが得られたチロシン3-モノオキシゲナーゼ(EC1.14.16.2)様酵素について組換えタンパク質の調製と酵素活性の検出を試みた。まず、無細胞タンパク質合成法により組換えタンパク質を調製しようとしたが、予想される分子量のタンパク質は得られなかった。そこで、チオレドキシンとの融合タンパク質として大腸菌で発現させたところ、予想される分子量の組換えタンパク質が検出できた。この組換えタンパク質を精製した後、放射性炭素で標識されたチロシンを基質としてチロシン3-モノオキシゲナーゼ活性を有するかどうかを調べたが、活性の検出には至らなかった。高等植物からのチロシン3-モノオキシゲナーゼの単離の報告は、草本で1例あるだけで木本植物に関してはなく、樹木の代謝におけるチロシン3-モノオキシゲナーゼの役割を明らかにするためにも、本研究で単離した酵素遺伝子の特性解析を進める必要がある。
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