本研究では、スギのノルリグナン生合成に関与する酵素の遺伝子を単離し、その遺伝子がコードする酵素タンパク質の特性を解析することにより、ノルリグナン生合成酵素を特定することを目的とした。 伐採したスギの丸太を室内に静置し、伐採直後、10日後、20日後及び41日後に辺材に含まれるノルリグナンを分析したところ、伐採直後には検出されないアガサレジノール(ノルリグナンの一つ)が20日後から41日後にかけて顕著に増加していた。伐採直後と41日後の辺材から抽出したRNAを用い、41日後の辺材で優勢に発現している遺伝子から成るcDNAライブラリーを作製し、504個の重複のない発現遺伝子の塩基配列を得た。DNAデータベースの相同性検索と推定機能に基づいた分類から「二次代謝」のサブカテゴリーには16種類の酵素をコードする遺伝子が含まれることがわかった。これらの酵素がアガサレジノールの蓄積と関係しているかどうかを推察するため、伐採後の日数経過に伴う辺材での発現変動を調べたところ、遺伝子の発現が、(1)伐採当日及び10日目には検出されず20日目から認められるもの、(2)伐採当日には検出されず10日目から認められるもの、(3)伐採当日から認められるもの、に分けられた。さらに(1)や(2)のグループに属する酵素遺伝子12種のうち5種は、心材形成が進行しているとされる11月の移行材で発現していた。アガサレジノールは心材成分であることを考えると、これらの中にアガサレジノール生合成に関わる酵素遺伝子が含まれると考えられた。全長cDNAが得られたチロシン3-モノオキシゲナーゼ様遺伝子をもとに大腸菌を用いて組換えタンパク質を調製したが、酵素特性の解析には至らなかった。この酵素は植物については草本から1例単離の報告があるだけなので、本酵素の樹木における役割を解明するためにも酵素特性を明らかにする必要がある。
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