研究概要 |
木材を屋外で用いると表層が光酸化され,変色や表層強度の低下が起こる。このような反応が木材に浸透するメカニズムが明らかになれば,光酸化しやすい表層の部分が特定され,効果的・効率的な耐光化処理が可能となる。本研究は,顕微赤外分光法を用いて,木材の光酸化層の深さを正確に測定し,上記のメカニズムを支配する主要な因子(光照射時間,照射波長,木材密度)とそれぞれの影響を明らかにした。 光照射時間の影響については,スギ及びヒノキ辺材のまさ目面を人工太陽光で1500時間(屋外光1年弱分)まで照射し,光酸化層の深さが光照射時間の対数関数として近似できること,スギとヒノキはそれぞれ深さ700μm及び450μmまで光酸化したことを明らかにした。これらの結果は,木材表層の浸透光の減衰と光酸化反応速度の関係から合理的に説明され,深さ700μmの光酸化層が浸透光によって直接引き起こされた可能性が強く示唆された。照射波長の影響については,紫外から可視域において,波長の増加とともに木材への浸透が深くなること,しかし同時に光酸化反応が弱まるため,木材を最も深くまで光酸化させるのは,可視域の紫色光であることを明らかにした。木材密度の影響については,樹種間及び樹種内での比較により,光酸化層の深さが木材密度に反比例することを明らかにした。 以上の成果をもとに,スギやヒノキの辺材が光酸化する深さについて次の予測方法を示した。(1)屋外光約1年分の光照射により,例えば密度0.22g/cm^3のスギ早材は,約700μmの深さまで光酸化する,(2)但し,光酸化層の深さが光照射時間の対数関数として増加する傾向があるため,光照射時間を10倍まで延長しても,スギ早材の光酸化層は深さ1000μm程度に留まる,(3)木材密度が0.22g/cm^3のn倍の場合,上記の予測値のおよそ1/n倍の深さまで光酸化すると考えられる。
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