研究概要 |
稀少淡水二枚貝カワシンジュガイのAタイプとBタイプを対象に、その遺伝的集団構造と遺伝的多様性、および各タイプの個体群構造、生息環境条件、本種グロキジウム幼生の宿主特異性に関する調査を行い、以下の興味ある研究成果を得た。 1)アロザイム遺伝子マーカー(14酵素16遺伝子座)を用いて遺伝的集団構造を解析した結果、Aタイプでは個体群間に分化が認められたのに対し、Bタイプでは集団間に遺伝的差異がまったく認められず、遺伝的に均質であることが示された。2)遺伝的多様性指数(A, AP, P_<95>,Ho, Heを算出して、集団内の遺伝的変異性を2タイプ間で比較した結果、Aタイプでは高い変異性を示したのに対し、Bタイプではすべての遺伝子座が同一の対立遺伝子に固定されており、集団内の遺伝的変異性がまったく認められなかった。3)本2タイプが同所的に生息する河川が多く存在する北海道東部において、いずれのタイプの個体群でも体サイズ組成において中・大型個体は比較的に多数生息していたが、殻長2cm以下の個体をまったく欠いていることが示された。このことは、最近の十数年間に渡って本種2タイプの再生産が健全に行われていないことを示唆する。4)北海道東部の標津川水系において、カワシンジュガイの生息の有無および生息密度を規定している環境要因を河床型と底質組成との関係で解析した結果、特に本種の幼貝が河床で固定しうる条件としての基質(砂礫、礫石、バイカモなどの水生植物)の存在が重要であることが示唆された。5)カワシンジュガイ幼生の健全なリクルートを図るための基盤となるグロキジウム幼生期における宿主-寄生関係を、幼生の種特異的判別DNA法を用いて解析した結果、Aタイプの幼生はサクラマスに、Bタイプの幼生はアメマスとオショロコマに寄生するという、種特異的な宿主-寄生関係があることが判明した。この宿主の違いから、彼らのリクルートにはAタイプではサクラマス個体群が、またBタイプではイワナ属の個体群が生息河川内で安定した個体群サイズを維持することが重要であると示唆された。
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