1.中枢神経由来のビテロゲニン合成と精原細胞増殖を促進させる神経因子の同定 卵巣組織培養系において、エストロゲンはVtgmRNAの転写を促進し、ペプチド性の中枢神経由来のVPF(卵黄形成促進因子)はVtgタンパクの翻訳を促進し、m(哺乳類)GnRHはVPFと同様にVtgタンパクの翻訳を促し、VPFの活性はanti-mGnRH抗体によって吸収消失した。 一方、精巣培養系において、中枢神経由来のペプチド性因子が強い精原細胞増殖促進作用を持ち、mGnRHも同様の作用を発揮した。中枢神経由来のペプチド性因子の作用は、anti-mGnRH抗体によって吸収消失し、2種類のmGnRHアンタゴニストによって拮抗阻害を受けた。 これらのことは、中枢神経にあるGnRHニューロンが、雌ではVtg遺伝子のタンパクへの翻訳に、雄では精原細胞の増殖に深く関与していることを強く示唆している。 2.エストロゲン受容体とGnRHのcDNAのクローニング 既知のERの配列情報から保存性の高いCドメインとEドメインに縮重プライマーを設計し、RT-PCRによるクローニングを試み、143アミノ酸残基をコードする430塩基からなるcDNA断片を得た。この配列はERに特徴的なC-4タイプの2つのZnフィンガードメインと核局在シグナルからなる部分Cドメインと、リガンド結合領域からなる部分Eドメインを持ち、分子系統樹解析からアメリカアメフラシERと同じグループに属していた。この配列は、最近我々が明らかにした米国産ヨーロッパイガイや日本産ムサラキイガイの卵巣ERと非常に高い相同性を持っていた。このことは、二枚貝の生殖におけるエストロゲンシグナリングの重要性を強く示唆している。 既知のGnRHペプチド配列の相同な領域に縮重プライマーを設計し、中枢神経からレーザーキャプチャーダイセクション法のよって得られたGnRHニューロンと中枢神経の全RNAから3'RACE法によるpreproGnRHcDNA断片形成を試みたが、いずれの断片も目指す配列を含んでいなかった。中枢神経のcDNAライブラリーを作製し、発現させた融合タンパクをanti-タイ型GnRH、anti-mGnRH抗体でスクリーニングして、陽性を示したクローンの塩基配列を解読したが、目指す配列を含んでいなかった。 今後、ホタテガイGnRHの構造決定には、まずアミノ酸配列の決定を行い、それに基づいた縮重プライマー設計、preproGnRHの3'RACEによるcDNAクローニングを行う必要がある。さらに、ホタテガイGnRHニューロンの分布とその伝達系路の解明も重要な課題と考えられた。
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