光受容-メラトニン分泌が行われる魚類松果体でも網膜の場合と同様に、成魚においても光受容細胞が新生され続けるのかどうか明らかにするために、まず未成熟ニジマスOncorhynchus mykissの松果体でPCNA(増殖細胞核抗原)免疫陽性細胞の豊富な分布とロドプシン陽性光受容細胞外節との連結あるいは近接を認め、光受容細胞が成魚においても新生し続ける可能性を指摘した。次に、成熟間近いニジマスにBrdU(チミジンの類似体)を投与し松果体への取り込みを免疫細胞化学的に調べるとともに、産卵後も成長し続けているニジマス(3年魚)についても調べ、松果体膨大部および柄部の吻側への著しい伸長とPCNA陽性細胞の豊富な分布および光受容細胞への分化の可能性を明らかにした。一方、温水魚のティラピアOreochromis niloticusや小型実験魚のゼブラフィッシュDanio rerioあるいはキンギョCarassius auratusにおけるBrdU取り込みあるいはPCNA免疫陽性細胞の分布についても調べたところ、ニジマスの場合とは異なりPCNA免疫陽性細胞もBrdU標識細胞も松果体には少なく、成魚における松果体光受容細胞の新生を確認することはできなかった。これは、life spanも長く産卵活動も長年に及ぶニジマスでは、他の多くの魚種と違って成魚においても松果体光受容細胞が盛んに新生し続け、明暗変化に直接対応して変動するメラトニン生合成や、光環境の変化に迅速かつ忠実に対応して成熟・産卵の制御に深く関わっていることを示唆するものと考えられる。
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