研究概要 |
本研究では,サケによる生態系サービスとしての物質循環の役割を河川・河畔林生態系で解明するとともに,そのような系の欠如した河川生態系に,順応的管理に基づき人為的にシロザケ親魚を放流して生態系の動態と遺伝的多様性と種多様性の高い自然生態系の回復を試みる。 1.遊楽部川生態系に及ぼす野生シロザケの影響と孵化場魚との相互作用 遊楽部川のシロザケ個体群は,古くから下流域で自然繁殖する固有系群(野生魚)と,人工孵化放流魚ではあるが上流域で産卵する孵化場魚のメタ個体群からなる。生残と繁殖競争のトレードオフの結果として,野生魚の雄は孵化場魚に比べ大型で第二次性徴の発現が著しいことが分かった。本河川では,流域土壌からの過剰な栄養塩の供給から,産卵期間中の栄養塩の増加は観察されなかった。現在,河畔林の炭素・窒素安定同位体比,バイオフィルム,水生昆虫の分析と野生魚と孵化場魚の分子生態学的分析を行っている。さらに,今後春期に降海する幼稚魚を採集し,その分子生態学的分析と生活史戦略を比較研究する。 2.石狩川水系におけるシロザケ自然再生産資源の復元および生態系サービスの変遷 2006年晩秋,石狩川水系千歳川上流部へ孵化場産シロザケ親魚雌雄それぞれ150個体を下流の捕獲場から輸送し麻酔後魚体測定をし,標識を付して覚醒後放流した。追跡調査の結果,主に湧水の湧出する上下流域数箇所に産卵場が形成され,産卵後死体は捕獲場までの約10km下流まで流下することが分かった。死体の分解速度には個体差が見られ,1〜3ヶ月を要した。現在,産卵後死体にコロナイズする動物群集を解析中である。また,親魚放流河川の千歳川上流域と遡河性魚の分布しないママチ川において,水質分析(栄養塩,クロロフィルa),バイオフィルム,水生昆虫のバイオマス,群集構造と栄養レベル,河畔林の炭素・窒素安定同位体比を分析中である。さらに,今後,耳石温度標識の孵化場魚と野生魚との幼稚魚の生活史戦略を比較検討する。
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