研究概要 |
本研究では,サケによる生態系サービスとしての物質循環の役割を河川・河畔林生態系で解明し,そのような系の欠如した河川における自然生態系回復を順応的管理に基づき試みた。 1.遊楽部川生態系に及ぼす野生シロザケの影響と孵化場魚との相互作用 遊楽部川のシロザケ個体群は,古くから下流域で自然繁殖する固有系群(野生魚)と,上流域で産卵する孵化場魚のメタ個体群からなる。生残と繁殖競争のトレードオフの結果として,野生魚の雄は孵化場魚に比べ大型で第二次性徴の発現が著しいことが分かった。本河川では,流域土壌からの過剰な栄養塩供給のため,産卵期間中の栄養塩増加は観察されなかった。河川底生生物群集の水生昆虫バイオマスは,シロザケ産卵場附近で産卵期後著しく増加した。特に,ヒゲナガカワトビケラとユスリカ科幼虫は体成長速度のみならず,バイオマスも著しく増加した。また,シロザケ産卵場付近の河畔林を形成するエゾノキヌヤナギのδ^<13>Cとδ^<15>Nは,それ以外の地域に比べて明らかに著しく高かった。これらのことから,遊楽部川で自然産卵しているシロザケ個体群は河川底生生物群集構造および河畔林生態系に著しい影響を及ぼしていることが示唆された。 2.石狩川水系におけるシロザケ自然再生産資源の復元および生態系サービスの変遷 石狩川水系千歳川上流部へ孵化場産シロザケ親魚を放流し,その後の追跡調査および河川河畔林生態系に及ぼす影響を調べた。その結果,それらの稚魚は2006年3月末から2007年4月末に浮上して降海したが,河川滞在期間に著しい変異(1〜8週間)が観察され,放流後直ちに河口域まで移動する孵化場魚と異なる降海行動をとることが分かった。実験放流数が少なかったため,2007年,産卵場付近の栄養塩,クロロフィルa,バイオフィルム,水生昆虫の群集構造,また河畔林のδ^<13>Cとδ^<15>Nには他地域との間に大きな違いは観察されなかった。
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