本研究では広汎な水産対象種に対象としてトランスクリプトーム(網羅的遺伝子発現)解析を可能とすることを目指し、低コストでより多くの情報取得が期待できるSAGE法の水産対象種に適用の可能性を探った。その足がかりとして、メダカをモデルとしてGTH受容体の機能調節機構解明の基盤形成を目指した。日周性の産卵周期中で2種のGTH受容体(FSH受容体、LH受容体)遺伝子の発現が確認された時点と発現が消失した時点で回収した卵濾胞からSAGEライブラリーを構築した。予備的な解析で各時点において特徴的に検出される遺伝子タグが見出されたが、この方法では回収される遺伝子タグが13塩基と短いため、対応する遺伝子の同定は難しかった。そこでMatsumuraらにより開発され、27塩基という長い遺伝子タグが分離できるため、遺伝子の同定が容易であるSuperSAGE法への転向を図った。また、原法では大量のmRNA試料が必要となるため、少量の試料をRNA増幅やPCRといった増幅反応にかけた後にSAGEライブラリー解析に供する方法を開発した。現在、増幅工程がオリジナルの遺伝子発現プロファイルに及ぼす影響を検証中で、今後この結果をもとに少量、多検体に対応した解析方法の提案を行いたいと考えている。 一方、熊本大学との共同研究によりメダカおよびヒラメにおいてFSH受容体が'性分化に関与することが明らかとなった。メダカにおいてFSH受容体遺伝子調節領域に緑色蛍光蛋白質(GFP)遺伝子を接続したレポーター遺伝子を導入したトランスジェニック個体を作製した。トランスジェニック魚では生殖腺支持細胞特異的にGFPによる蛍光が観察された。これによりこれまでは技術的に困難であった、GTH受容体発現細胞の単離分析に道が開かれた。現在、GFP蛍光を指標とした支持細胞の分離技術の開発を進めており、今後単離した支持細胞におけるトランスクリプトーム解析を行うことにより受容体遺伝子の発現調節機構を明らかにしたい。
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