研究概要 |
海産軟体動物タンパク質架橋酵素は海水や体液等の外環境のイオン濃度で著しく活性化して,実際に血球タンパク質等を架橋重合するので止血因子の可能性が考えられる。そこで本研究では酵素の生理機能解明を企図し,特に生体内基質の探索と一次構造解析,また酵素のタンパク質架橋反応機構の解析を行い,基質の共通構造特性の解明を試みた。 1.ホタテガイ筋肉,肝臓,血球,エラ,外套膜筋からmRNA,cDNAを調製し構造既知配列をコードするプライマーでRT-PCRを行ったがmRNA量の不足により目的産物の増幅が見られず,今後はゲノム側からの解析が必要であると思われた。 2.ホタテガイ血球生体内基質タンパク質の主成分である45k成分のBrCN分解断片15,12k断片の配列YVAIQVLSLとGQKDSYVGDEを決定しアクチンであることを明らかにした。 3.コイミオシン分子を基質モデルとして,架橋部位アミノ酸の同定を試み,ミオシンS2領域のC末端側のGln(520)残基に蛍光基質MDCが特異的に取り込まれることを明らかにし,ミオシンのTGase架橋形成がGln(520)残基と近傍Lys残基間で最初に起こることを推測した。 4.スケトウダラの場合もコイと同一のS2領域Gln(520)残基が反応部位であったが,ホタテガイミオシンの架橋部位はrod領域に複数存在し魚類とは相違していた。 5.イカ鰓生体内基質はスルメイカが190,90kDa成分,ヤリイカが190kDa成分であった。190kDa成分が共通の基質タンパク質として創傷治癒に関与している可能性が示唆された。190kDa成分の部分一次構造AIDVE,ANTDEALには既知タンパク質との類似性は確認できなかった。ホタテガイ血球の場合も200kDaタンパク質が主たる基質であり,これらが海産軟体動物架橋酵素に共通の生体内基質であることが示唆された。
|