本研究では、様々な生活習慣病のリスクファクターとなる肥満に対して予防効果が期待される機能性成分を水産物中に見出すため、肥満形成と密接な関わりをもつ脂肪細胞の分化制御機能に焦点を絞り検討している。昨年度の研究により、ワカメなどの食用海藻に含まれるフコキサンチン(FC)や魚油の主要な構成脂肪酸であるドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)が3T3-L1前駆脂肪細胞から脂肪細胞への分化を抑制することを見出した。本年度の研究により、下記の知見が得られた。 1.マウスに経口投与したFCの一部がフコキサンチノール(FCOH)に変換され、白色脂肪組織に蓄積することが明らかとなった。 2. FCOHは、10μM以下の濃度において前駆脂肪細胞から脂肪細胞への分化過程で誘導される油滴の蓄積やGPDH活性の発現を抑制し、更に分化の制御因子であるPPARγのmRNA発現量を低下させた。 3. FCOHの3T3-L1に対する分化抑制効果はFCによる抑制効果と比較して顕著であることを明らかにした。 4. DHAは25-100μMの濃度において3T3-L1細胞に加え、ラットより分離した初代脂肪細胞の分化を抑制することが明らかとなった。 5. 3T3-L1細胞および初代脂肪細胞の培養上清中に分泌されるレプチン濃度がDHAやEPA処理により顕著に低下した。 6.上記で分化抑制効果が見られたFCOH(10μM以下)及びDHA、EPA(100μM以下)の添加濃度では3T3-L1細胞の増殖はほとんど抑制されなかった。 以上の結果より、水産物に特徴的なFCの生体内代謝物であるFCOHが脂肪細胞の分化抑制作用を示す活性物質の一つであることが明らかとなった。また、DHAやEPAは初代脂肪細胞に対しても分化抑制効果を示したことからその有用性が示唆された。
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