平成17、18の両年度において、(1)ホタテガイ、コンブ・ワカメ等を中心とする養殖業の生産構造分析、(2)北海道並びに東北における主産地の経営実態調査、(3)漁協を中心とする区画漁業権管理並びに漁場利用制度面の変化の把握等を行った。実態調査と分析、検討においては、浜田武士(東京海洋大学助教授)、工藤貴史(同助手)、宮田勉(岩手県水産技術センター研究員)らの協力を得た。当該研究実施において、以下のような新たな知見を得た。 そう類、及び貝類養殖はいわゆる「給餌養殖業」とは異なり、自然の条件に厳しく規定される側面が強く大規模型漁場利用生産力を想定し得ない、小規模・家族労作的生産力を特徴とする、従って比較的公平・平等な漁場の利用・行使を中心とする(即ち、漁協等の漁業者団体が全体的な見地から漁場を管理する)組合管理漁業権の適用が相応しい典型的な「特定区画漁業」と位置づけられてきた。しかし、国民需要の拡大・深化、種苗や育成に関する産業技術の展開、基盤整備や流通条件等の政策的支援を背景として、当該養殖生産力は高度化され、生業から企業的経営への成長を遂げる担い手も現れるようになった。こうした状況が、「大量斃死」や凶作を契機とする生産者の脱落、輸入等による価格条件の変化や産地の動揺、従事者の高齢化や空洞化等を要因として経営体の階層格差、階層分解をあらためて現出させている。具体的には、(1)格差競争的な上層経営の出現、(2)漁場の「割替え」を契機とする行使漁場の再分割、(3)漁協の区画漁業権管理の再編という形で当該養殖業の変化が認められた。漁場用益形態や管理形態の変化の態様は、地域漁場の条件変化、経営体の分解の深度、養殖業の生産力的再編状況、漁協による特定区画漁業管理要因の再認識の程度等により異なるが、組合管理漁業権制度を変化せしめる要因は強まっている。
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