イギリス農業の実証分析をもとに、土地合体資本にかかわる論争点、並びに絶対地代を収量に比例する地代の残像とする阪本楠彦氏の所説の妥当性について検討するのが本研究の課題である。本年度の成果は以下のとおりである。 1.原理論における土地合体資本の投下問題についての理論的解明 経済学の原理論において土地合体資本の問題をどのように説きうるかについて論じた論文「原理論における土地合体資本の問題」を『農業経済研究』に投稿していたが、審査結果を踏まえて論文を拡充する必要が出てきた。そこで、経済学の原理論の中での地代論の展開方法、並びに地代論の中での土地合体資本論の位置づけを明確にする理論研究を行ない、既往研究のレビューを中心にまとめていたものの改善を図った。 2.有益費の実態分析 専門家へのヒアリングや文献研究から、有益費補償がドイツやアメリカでは法制化されていないことが明らかとなった。日本でも法制化されていないので、これら諸国と法制化が行われたイギリス及びフランスとの比較から、有益費補償の法制化の背景について考察を加えた。その結果、完全な投資回収を求める農業経営の近代的性格、並びに農業経営に比べて土地所有が大規模で交渉力が強いことが背景にあることが判明した。このことは、日本で主張されている有益費補償を法制化すべしとする見解が妥当性をもたないことを示唆するものである。 イギリスにおける有益費補償の実態との関連では、借地農が有益費補償に不満な場合に裁判に訴えようとしても、費用がかさむことから訴えることが難しくなり、有益費補償制度が必ずしも有効に機能していない問題があることが新たに明らかとなった。 3.地代の実態分析 最近のイギリスでよくみられるマネージメント・アグリーメントと呼ばれる経営受委託の場合の受託料金の決定方法について調べた結果、余剰部分の処理に収益分割の論理が存在していることが明らかとなった。
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