2年にわたる研究の総括として、2006年10月に、谷口信和・李侖美『JA(農協)出資農業生産法人』農山漁村文化協会、368頁、を出版した。そこでは本研究の意義を次のように整理した。 本来、独立した小生産者である農民の自主的な組織としてのJAが、農民が行ってきた農業を代替する役割をもつJA出資法人を設立することは、ある意味ではJAそのものの自己否定という側面をもつものだといってよい。にもかかわらず、JA出資法人設立の運動が僚原の火の如く、静かな広がりをもち始めていることは、それだけ日本農業の危機が深く、各地に及んでいることの逆説的な表現だといわざるをえないであろう。 本研究はこうしたJA出資法人の意義を明らかにするために、第1に、今日の農業構造問題の特質を、(1)農地の流動化における作業受委託から賃貸借へのシフト、(2)耕作放棄地の激増、(3)農地貸付層の非農家化の進展、と捉え、JA出資法人という新たな担い手の登場が要請される背景を明らかにした。 第2に、JAにとって農業構造問題の意義が増大する背景を正組員の「非農家世帯化」の視点から捉えるとともに、全中・県中・単協の各レベルにおけるJA出資法人に対する取り組みの経緯を歴史的に振り返り、JA出資法人設立の運動における「下からの」性格を明らかにした。 第3に、2001年以降の第3段階の特徴を第2段階との対比において明らかにするために、2004・年の全国アンケート調査結果に基づいてJA出資法人展開の全体像を最新の局面について示すとともに、決算報告書等の分析によって、第2段階から第3段階への移行を通してJA出資法人の経営状況がいかに改善されたかを指摘した。 そして第4に、こうしたJA出資法人の発展過程が5つの異なる経営類型の形成・展開によって牽引されている様相を個別実態調査の検討によって示した。JA出資法人が実に多彩な姿をとっていることの一端が明らかになった。 著書公刊後には折から開始されていた品目横断的経営安定対策へのJA出資法人設立を通じた対応についても調査・分析を行い、JA出資法人が一層多様な類型を生み出しながら形成され、発展している姿が明らかになりつつある。こうした研究は平成19年度からの新たな科研費による研究に引き継がれる予定である。
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