経済のグローバル化が進行し、一国のみを対象として農産物貿易政策・農業政策の効果を研究するだけでは不十分であり、国際農産物市場との関連を考慮することが必要不可欠となってきており、農産物や非農産物の国際市場だけではなく、資本をはじめとする生産要素の国際間移動を考慮しないと、農産物貿易政策や国内農業政策の適切な評価が困難、あるいはバイアスを持ってしまうという認識の下に、農産物貿易の国境措置の水準が削減される場合の厚生経済学的帰結について考察した。 特に近年、日本、韓国、中国、台湾などを含む自由貿易協定の枠組みの中での農産物貿易の自由化が重要な経済問題となっているため、資本移動の国際移動をも含む形で自由貿易協定の厚生経済学的帰結について研究を行った。 現実の協定内容を見ると、経済統合の第一段階である自由貿易協定においても「例外規定」ということで農産物が自由化のプロセスから除外されている場合も多い。除外する理由には非経済的な目的の追求などさまざまなものをあげることができるが、本研究では非経済的な目的については考察の対象とはせず、「例外規定」という言わば財の貿易におけるディストーションを前提として、要素移動の自由化を行う場合の厚生経済学的帰結について吟味するのを目的とした。本研究で採用したモデルは2財3要素特殊要素モデルというきわめて限定的なモデルではあるが、これまでの研究で確認してきた基本メッセージ「ディストーションが複数存在する場合には、その歪みを闇雲に削減しても必ずしも厚生水準は改善しない」が、財の貿易と生産要素の移動との間の関係でも成り立つことを確認し、厚生水準が悪化する条件を求めた。
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