クラスター戦略の理論的基礎となるクラスター理論に関して、農業立地論および農村開発論を踏まえ、農業クラスターを分析する理論的な枠組みの構築について検討した。また、クラスター形成に重要となる公共財供給および公共施設の配置計画に関する理論的研究を行った。さらに、中国における農業クラスターを取り巻く経済環境を明らかにするため、農業の持続可能性に関する分析、東アジア農業をめぐる競争・協力関係に関する分析、食料政策に関する分析を行った。 中国における農業クラスターの実態を明らかにするために、実態調査を継続して実施した。今年度は新たに新疆ウイグル自治区における綿花クラスターとホップクラスターを調査対象に加えた。農業クラスターを取り巻く政策的・経済的背景を明らかにするために、関係機関に対する実態調査を実施した。そして、クラスターの核となる龍頭企業に対するヒアリング調査を基に、龍頭企業の経営実態と新たなビジネスモデルの創出についての検証を行った。 上記の実態調査結果とこれまでに実施した上海市における野菜クラスター、および内モンゴル自治区における酪農クラスターの実態調査結果を総合して、クラスター理論を基にした実証分析を行った。それぞれの農業クラスターについて、社会経済的な立地条件、基幹作物、技術開発、龍頭企業の特質、地域の農業政策などの側面から比較分析し、農業クラスターの発展要因および、農業クラスター形成が貧困解消などの農村開発に与える効果について検討を行った。また、上海市の野菜クラスターにおける多様な都市部消費者への対応、野菜の供給量と品質・安全性のトレードオフの問題、内モンゴル自治区の酪農クラスターにおける効率性・品質向上・原料乳確保に対応したビジネスモデルの転換、酪農事業における社会貢献や環境対策など、農業クラスターの直面する課題について明らかにした。
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