近年、多くの国民は政府の活動から疎外されているという意識をもっており、その結果政治・行政に対してさめた、無関心なサイレント・マジョリティが形成されている。政治や行政に対する国民の不満感や疎外感を和らげるために、また、財政難に対処するために、「行政機関が行う政策の評価に関する法律」に基づき政策評価が導入され、国民本位の政策の立案と効率的で質の高い行政の実現が目指されてきた。本研究が調査対象としている農林水産省や兵庫県農林水産部における農林水産行政の政策評価はすでに5〜7年の実績がある。評価できる成果としては、(1)客観的数量データに基づいて政策評価の結果を公表することにより、政策論を客観的に議論しやすくした。(2)施策の企画⇒施策の実施⇒施策の評価⇒施策の改善という行政マネジメント・システムを円滑に推進する経験を積み重ねることを通して、職員の政策形成能力の向上や意識改革に貢献している。改善すべき点としては、(1)両者の政策評価は事務事業評価が中心であり、外部委員で構成する委員会における意見を反映させる仕組みとなっているものの、自己評価が基本となっている。まだ官僚的な感覚による政策評価という性格が強い。(2)既存の行政組織を前提としてアウトプット指標が多く用いられており、国民や県民の満足度を把握できるアウトカム指標が少ない。(3)公表された政策評価の結果が議会における政策立案や予算審議においてどの程度活用されているか明確ではなく、国民、県民の政策評価結果の認知度はそれほど高いとはいえない。 こうした事務事業評価とは異なる政策評価が、青森県の政策マーケティングや東海市で実施されている。東海市では、50人の市民で構成する「市民参画推進委員会」が5つの理念と38の生活指標、99のまちづくり指標を選定し、これらまちづくり指標の「めざそう値」の達成度から市民の生活満足度の向上を把握している。市民で構成する委員会が作成したアウトカム指標の測定から市民の生活満足度を計測するというアプローチは、アウトプット指標を多く用いて自己評価する農林水産省と兵庫県農林水産部の事務事業評価とは異なっている。将来は、事務事業評価とあわせて、国民、県民の食料・農業・農村に関する生活満足度をアンケート調査の実施により計測することも検討すべきであろう。
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