北部茶主産地のタイグェン省では、昨年度までに行った農業構造や経済的側面の調査に加えて、村の開拓史や環境史をあきらかにするための聞き取り調査を行い、現在までに至る村ごとの開拓の経緯の違いによって、農民経営における茶生産の位置づけが異なっている実態が明らかになり、集落による茶生産への取り組み方の差について考察するための手がかりを得ることができた。 一方、天然ゴム主産地のビンズォン省では、昨年度の経営者調査に引き続き、本年度は農業労働者の調査を行った。その結果、雇用を行う生産経営の規模、労働者の民族、性別、経験等によって賃金水準、その他の雇用条件に若干の差は認められるものの、全体的には雇用労賃の水準は高く、全国各地から農業労働者の移動が広く起こっていることが明らかになった。また深夜から早朝にかけての作業のため、慢性的に身体の不調を感じている労働者も少なくなく、労働環境と労働条件の一層の改善が課題となっている実態が明らかになった。 以上のとおり、本研究では、近年グローバル化が進み、国際市場への輸出増加を背景にして、生産の拡大が進む茶と天然ゴム主産地は、地域労働市場を形成し、地域全体としては経済的利益を増加させつつも、その内部においては農民的経営の階層分化が進み、住民間の所得格差の拡大もますます顕著になっており、社会的な不安定要素を孕みつつ成長が続いていることを明らかにでき、当初の「研究の目的」にそって一定の知見を得ることができた。
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