本研究では、(1)理論的問題の整理を「非営利組織論におけるセクター論」「福祉国家論における『新しい公共論』」「農業経済学・農村社会学における中山間地域振興策」といった複眼的観点から行う計画であった。 日本協同組合学会第25回大会シンポジウムテーマは「現代社会における地域福祉と協同組合セクター」であり、筆者はこのシンポジウムのコメンターとして参加し、非営利セクター論・福祉国家論についての知見を深めることができた。筆者は協同組合の福祉活動・事業が、コミュニティの再建・地域での生活そのものの尊重にとって重要であるとコメントし、研究上、意義深いものとなった。 また、本研究の特徴は、(2)現地聞き取り調査・資料収集に重点を置き、地方自治体の連合組織である「広域連合」の機能や協同組合・ワーカーズコレクティブ・NPO等の非営利組織が、新たな形態と理念で提供する「公的サービス」について実証することであった。複数の調査地を想定していたが、研究者の健康上の理由により現地調査が1回しか行えなかったことは、不十分であった。調査地として選定した長野県上小地区(上田市・小県郡)は、2〜4市町村毎の散発的な合併を行っているのみであり、最大の新上田市も16万人の人口にとどまり、一方で人口5000人の小村も維持されている他、郡越えの町村合併がある等、広域合併が順調に進んだとは言いがたい地域である。こうした地域で、農協(JA)グループ(県厚生農協連・JA信州うえだ・農協グループ出資の社会福祉法人)が研修や人事交流を含む「医療保健福祉複合体」を形成し、公益の提供に成功しており、次年度の研究に発展させる基礎的知見を得ることが出来た。 当初計画では、非営利組織一般につき、幅広い「広義の公的サービス」の機能提供や、非営利組織の組織・経営について調査する予定であった。しかし、本人の健康問題により、十分な研究が出来なかったことは、反省点である。
|