本課題は、平成の大合併が進んだ中でも、広域的な市町村合併を進めること力困難な農山村地域において、不足しがちな公的サービスを賄う体制をいかに構築するかを研究するものであった。平成17・平成18年度同様、非営利組織が様々な主体の参画・ネットワーク形成によって、行政と連携しつつ公的サービスの供給システムを構築できるという「もう一つの解」を理論面の研究に加え、事例分析によって示唆することができた。 取りまとめの理論的基盤となるセクター論・福祉国家論・農政問題・農村社会問題については、北星学園大学経済学部北星論集に論文「セクター論の意義と可能性」、論文「非営利セクターとしての農村コミュニティの可能性」としてまとめ、発表した。 また、平成17・平成18年度で調査を進めた長野県上小地区(上田市が中心)および愛知県知多半島の現地調査結果をまとめるべく、これらの地域の再調査を研究分担者が行った。両地区共に行政合併が急速に進んだ西日本と、合併進度が緩慢な東日本の境界に位置し、両県内における行政合併が顕著に進んでいる地区とそうでない地区がまだら模様になっている点が興味深い。 さらに、調査では、長野県上田市において旧来の農村コミュニティが地域づくりの意思決定と実践を行うアソシエーションに発展しつつ、農業協同組合(JAグループ)との協働を進め、医療保健福祉機能の整った地区形成に成功した事例を確認した。また、愛知県知多半島においては、福祉サービスを供給するNPO法人等がネットワークを形成、各地の行政との協働にイニシアティブを発揮している事例を確認した。 以上の研究により、広域的な市町村合併を進めることが困難な農山村地域においても、農業協同組合やNPO法人などの非営利組織の活動次第では、医療保健福祉に関わる公的サービスを確保することが可能になることを明らかにした。
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