オランダの家畜糞尿政策の実績を把握し、その経済的影響と環境への影響を明らかにした。ミネラル会計制度(MINAS)の導入後、糞尿発生量は減少し、養分収支は改善しつつあるが、水準自体はまだかなり高く、目標値を実現するためには一層の削減が必要である。硝酸塩濃度は、農場内の浅層地下水で改善の兆しがみられるものの、砂質土壌では広い地域で目標値の50mg/lを超えている。地下水のより深いところでは対策の効果が現れるまでには時間がかかる。 つぎに、家畜糞尿政策の諸施策のうち、経済的手段である糞尿および豚・家禽生産権と、ミネラル会計制度(MINAS)について分析した。糞尿生産権制度は、それまでの糞尿基準量を取引可能にしたものだが、取引はあまり活発ではなかった。これは、取引制約が多いこと、制度の先行きが不透明だったこと、初期配分が実際の頭羽数より多かったことなどによるものである。また、この制度は排出許可証取引というよりも、実質的には飼養頭羽数制限であり、1頭羽あたりの糞尿発生量を減らすインセンティブを農業者に与えなかったので、糞尿排出削減費用を最小化させず、総生産費の最小化をもたらしたとも考えにくい。 MINASの課徴金は、経済的手法として導入されたが、実際は損失基準量を遵守させるために高い料率が設定されたため、経済的手法が持つとされる効率性を発揮できなかった。確かに、MINASの導入によって窒素とリンの損失量が全般的に減少したが、これはMINASの養分会計という手法によるところが大きい。酪農部門に対しては、MINASはうまく機能したが、土地がほとんどない養豚・養鶏経営に対しては、別のアプローチが必要だった。 日本については畜産経営に関わる環境政策を概観し、量的規制の欠如とオランダのような養分収支を考慮した取り組みの必要性を指摘した。
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