研究概要 |
一般に,魚類の生息場選好性は,流水要素,水質要素および空間要素の複雑な相互影響の下で決定される.本研究では,人工知能技術として知られるファジィ推論,遺伝的アルゴリズムおよびニューラルネットワークを用いて,メダカ(Oryzias latipes)の生息場選好性を定量化するモデルを開発した.まず,所望の環境条件を設定可能な室内実験で予備的にメダカの生息場選好性を把握し,次に,農業用水路で実施したフィールド調査から実水域における生息場選好性を定量化した. 室内実験では,水深因子,流速因子および遮蔽因子を採り上げ,開水路実験により生息場選好性を表現するモデルを構築し,得られたモデルを平面水槽実験により検証した.開水路実験の結果,与えられた環境に対するメダカの環境応答に大きなばらつきが見られたため,簡略化法によるファジィ推論を導入し,このばらつきをメダカの選好判断のあいまいさとして積極的にモデルに組み込んだ.モデルの最適構造は遺伝的アルゴリズムによる最適値探索で決定した.得られたファジィ選好強度モデルはメダカの空間分布を良好に再現した.また,得られた重みから流速因子がメダカの生息場選択に最も重要な因子であることが分かった. 次に,フィールド調査を基にメダカの生息場選好性を定量化した.その際,物理環境測定値に含まれる観測誤差や水域内でのばらつきをファジィ数で表現した.その結果,メダカの空間分布の予測精度が向上し,得られた選好強度分布からメダカの生息場選好性の季節変化や側方遮蔽の重要性が明らかになった. また,水生植物がメダカの生息場選択に与える影響をファジィ選好強度モデルとAIC(赤池情報量基準)を用いて評価した結果,水生植物の重要性が定量的に示された. 最後に,複雑な環境下にあるメダカの生息場選択を,複雑系のモデリングに優れたニューラルネットワークによりモデル化した.入力層にファジィ推論を導入し,物理環境測定値をファジィ数で表現した.本モデルによりメダカの生息場選好性および空間分布が精度良く再現された. 以上,メダカの生息場選好性を人工知能技術により良好に定量化できることを明らかにした. 最終年度となる平成18年度は,フィールドデータを更に蓄積し,以上で得られたモデルの予測精度の向上を目指す.
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