研究概要 |
一般に植物組織の水ポテンシャルの計測は,植物組織を切り取って,切除組織をサイクロメーターで計測される。しかし,細胞生長が起こっている組織では,切除後細胞壁の緩和が起こることが知られており,生長している組織を使ってのサイクロメーターを用いての水ポテンシャル計測は計測精度に問題があることが指摘されてきた。しかしながら,サイクロメーターは水蒸気分圧の平衡下で植物組織の水ポテンシャルを直接計測できる利点があり,他の計測法では完全な非破壊状態で計測できない問題点がある。そこで,本研究では,植物サンプルを非破壊状態で収めることができるサイクロメーターチャンバーを作成することで,非破壊状態の水ポテンシャル計測を行うことを果実で行うことを目的としている。この新しい手法を用いての果実過程における水分状態計測により,いかに果実が水を吸収し,肥大するかの機構を明らかとし,また,水分状態の変化に伴う裂果の原因についても水分生理学的に解明することを目的としている。 果実の成長の水ポテンシャル計測のためにプレッシャーチャンバー内に水耕状態のトマトの根圏を装着し,トマト植物体の根部に圧力を与える実験を行い、同時にトマト果実の成長速度を計測した。果実の水分状態はサイクロメーター,プレッシャープローブで計測し,細胞膨圧の計測とともに,細胞の浸透ポテンシャルも計測した。トマト果実の成長初期には水ポテンシャル勾配と果実の細胞伸長速度と相関が高かったが,果実成長後期は膨圧の大きさと細胞伸長速度との相関が高かった。根圏に圧力をかけ,水ポテンシャル勾配を増加させると,果実の成長速度が上がる傾向が見られた。サイクロメーターを使用した果実の水分状態非破壊計測は,温度制御の難しさから,精度の高さにおいて問題が見られた。今後のさらなる計測法の改善が望まれる。
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