最終年度は、接ぎ木の活着生理における、内生ホルモンを作用を意識した維管束形成に合わせた環境を設定した結果、接ぎ木の活着速度が向上した。具体的には、接ぎ木切断加工によるエチレンが癒傷反応のための細胞増殖のトリガとなる。初期は暗黒・温度・高湿度環境がジベレリンを機能させて細胞増殖させ、光強度を増すと同時に湿度を避けることにより、オーキシンの生成と蒸散によるサイトカイニンの上昇により、細胞増殖から分化へと進み、最終的には乾燥によるアブシジン酸による増殖抑制をもたらす。エネルギー源となる炭水化物は十分に備え、萎れに強くするためのアブシジン酸も環境耐性として付加しておくことが必要であることが判った。このことにより、接ぎ木の養生の方法の指針が立ち、制御ルールが作成できた。これを基にして、植物の挙動を見ながら、環境制御すれば時間ではなく、接ぎ木後の苗の能力に応じた養生が行えることが判った。穂木の発根は、導管の外側で根源基が形成され、その後に不定根形成に至る。この発根を避けるためには、穂木の表皮が残る加工形状の場合、過加湿を避けて乾燥を保つことが重要で、台木からのサイトカイニンが伝わらないウリ科における胚軸内の空洞などに穂木の師管が入る場合は台木内部で、穂木が台木よりも茎径が細く包まれるような穂木の表皮、水が溜まるあるいは重力移行性を持つオーキシンが溜まる湾曲部などで多く発根する。また、穂木よりも台木の茎径が太い場合は、師管が穂木からの接続を無くし、光合成産物が台木に移行せずに台負けを生じ、やがて、穂木も枯死する。割り接ぎは楔形のものを挟む場合に押し上げることがあり、楔角が鈍角なほど密着し難く、鋭角にすると加工長さが必要となり、活着に時間を要することが判った。また、昨年に試作した省エネ型の養生状装置を、温度勾配を利用した装置にさらに改良し、更なる省エネ化ができた。
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