昨年度の研究で、細胞外マトリックスや腸管上皮細胞様培養細胞に良好な付着性を有する乳酸菌株を選抜した。 そこで、本年度は選抜された菌株の創傷治癒促進活性を評価した。すなわち、腸管上皮細胞様細胞であるCaco-2細胞をコンフルエントとなるまで培養した。これに、乳酸菌懸濁液を添加し炭酸ガス培養器中で2時間培養した。乳酸菌懸濁液を除去後、ピペットチップを用いてCaco-2細胞層の一部を剥離した(創傷形成)。その後、倒立顕微鏡用炭酸ガス培養装置を用いて12時間まで培養した。この間、細胞層の修復(創傷治癒)状態を経時的に観察するとともに写真撮影した。その結果、試験した乳酸菌3菌株においては、いずれの菌株でも乳酸菌による前処理は無処理の場合と較べ、細胞層の修復を促進した。 次いで、最も、促進効果が高かったLactobacillus acidophilusの1菌株を用いて修復促進機構について検討した。生菌体、加熱死菌体および菌懸濁上清の修復促進活性を比較したところ、菌懸濁上清においてはごく弱い促進活性しか認められなかったのに対し、死菌体では生菌体と同程度の活性を示した。そこで、促進活性は比較的強固に菌体表層に結合している成分によるものと推定し、S-layerタンパク質を抽出した。S-layerタンパク質を不溶性画分と可溶性画分とに分けて修復促進活性を比較したところ、不溶性画分に活性が見られた。L..acidophilus菌体で処理した場合のCaco-2細胞側の応答を蛍光顕微鏡で調べた。その結果、未処理の場合と比較してL.acidophilus菌体で処理した場合にアクチンフィラメントの集積が認められた。 以上の結果から、L.acidophilus菌株はCaco-2細胞のアクチンフィラメントの集積を促進することにより、剥離細胞層の修復(創傷治癒)を促進すると推定された。
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