吸収された亜鉛(Zn)は主に消化管内に排泄されると考えられており、見かけのZn吸収ではZnの代謝やZnの生体利用性を検討することはできない。1960年代に放射性Znを用い、反芻動物における真のZn吸収を検討した試験がいくつか報告されているが、一貫した結果は得られていない。また、Znの内因性糞中排泄に関してはほとんど報告がない。そこで本試験では安定同位体である67Zn(天然存在比4.1%)をトレーサーとして用い、ヤギにおけるZnの真の吸収、内因性糞中排泄を検討した。体重約60kgの去勢ヤギ3頭に50mg/kg ADMのZnを含む飼料を1日に2回給与した。10日の予備飼育の後に、トレーサーとして67Znを非吸収性マーカーであるディスプロシウムとともに経口投与した。糞をトレーサー投与1日前、ならびに投与後6時間間隔で7日間採取した。試料を、マイクロウェーブ分解装置を用い硝酸と過酸化水素による湿式灰化を行った。糞中Znを原子吸光法で、糞中67ZnならびにディスプロシウムをICP-MSで測定した。67Znの消化管通過速度はディスプロシウムよりも速かった。そのため、本試験ではディスプロシウムをマーカーとして用いることはできなかった。トレーサー投与2日目以降に67Znエンリチメントは急激に減少したが、7日目では10%を下回りほぼ一定となった。トレーサー投与7日後までのデータを用いて算出した見かけのZn吸収(平均±標準誤差)は-1.07±1.85%(-0.0l±0.02mg/d・体重)、真の吸収は8.25±2.01%(0.16±0.02mg/d・体重)、内因性糞中排泄は0.17±0.01mg/d・体重であり、真の吸収量と内因性糞中排泄がほぼ等しいことが示された。また、真の吸収と内因性糞中排泄から求めた消化管内Zn分泌量は0.21±0.01mg/d・体重であった。
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