ヒトや動物における下痢症起因ウイルスに対する経口的に感染し、衛生対策を施す以外、確実な予防手段がないのが現状である。申請者はこれまで、レクチン(糖鎖結合タンパク質)を産生し、細胞接着性を示すある種の乳酸菌株が消化管感染症起因細菌の細胞への感染を阻止することを示してきた。一方、乳酸菌株と下痢ウイルスを共培養することによってウイルスの増殖が抑制されることも示唆してきた。そこで本研究では「乳酸菌が腸上皮細胞に接着することにより、腸上皮から抗ウイルス物質の産生が誘導される」との仮説を立て細胞接着性乳酸菌の腸由来株化細胞における抗ウイルス物質産生誘導能の検討および抗ウイルススペクトラム(どのようなウイルスに効果を示すか)の検討を行うこととした。 腸管由来株化細胞としてCaco-2細胞を用い、乳酸菌8株と共培養しその上清を試料液とした。 指標ウイルスとしてコロナおよびウシ粘膜病下痢ウイルス(BVDV)を用い、コロナウイルスに関してはCaco-2細胞で増殖できることを確認した。ウイルスを細胞へ接種前、接種後に上記試料を添加した結果、腸管由来細胞とある菌株を共培養した上清中にはコロナウイルスの産生量を90%程度抑制する菌株が見出された。このときpHはほぼ中性(pH6.5)であったので、乳酸以外の抑制物質が存在することが示唆された。また、ウイルスを接種前に乳酸菌と共培養しても抑制効果は見られたので、本抑制物質はウイルス粒子と相互作用することによるものと考えられた。なお、ばらつきが大きいデータもあるので今後さらに検討を重ねる必要がある。
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