実験動物としてマウスを使用し、卵巣内の生殖幹細胞の検索、採取および培養法、卵巣組織の凍結保存の影響の検討を行った。卵巣内の生殖幹細胞の検索法として、増殖細胞のマーカーであるKi-67抗原およびMCM3ならびに減数分裂初期のマーカーであるSCP3と生殖細胞マーカーのVasaホモログ(MVH)の共局在について免疫組織化学的手法により検討したが、MVHを発現している細胞では、既報どおり核内に核小体様のKi-67陽性部位が見られたが、増殖細胞でみられる核内全体での反応は観察されず、MVHとMCM3の共局在、SCP3の明瞭な陽性反応は認められなかった。マウス卵巣細胞を酵素処理により単離し、抗SSEA1抗体および磁気ビーズによる標識、選択を行った。回収された細胞を培養したところ、プラスチック上では大部分が上皮様または線維芽細胞様の形態、ポリエチレンイミン処理ガラス上ではこれらに加えて細胞塊状になった。MVH陽性細胞も存在したが増殖細胞マーカーの発現は認められなかった。これらの結果から、生殖幹細胞の存在は確認できなかった。凍結保存法については、若齢マウス卵巣を緩慢冷却法により保存後、器官培養し、MVH発現と細胞の損傷の指標としてDNA断片化を検索した。保護物質としてトレハロース添加の効果を検討した。培養後の卵巣組織において、生殖幹細胞の候補である卵巣表面のMVH陽性細胞の損傷は比較的軽微で、これらの細胞は卵巣組織の保存法と同様の手法で保存できると考えられた。高濃度トレハロース添加では組織損傷が増大する傾向が認められた。また、新生仔マウス卵巣を器官培養し、培養後の組織でMVH発現、Ki-67抗原、DNA断片化等を検索した。培養温度を変えたところ、卵巣表面のMVH陽性細胞はいずれの場合も少数で変化がなかったが、卵母細胞の分布に変化が見られたことから、卵母細胞または顆粒層細胞の動態に影響を与える可能性が示された。
|