研究概要 |
本研究では、新生子期並びに発育期の動物の脳機能が発達する"臨界期"に注目し、出生直後に母親から分離し母子間の接触が断たれる"Maternal Separation"ストレスが、発育期から成熟期の脳機能に及ぼす影響を行動学的、神経生化学的に解析した。また、LFの腸管吸収効率の向上を目指して、LFの腸溶化による効果を解析した。 1.母子分離による母ラットの養育行動低下に対するLFの改善効果 生後2日〜11日の間にわたって母ラットをホームケージから離し、それぞれ2時間経過後にホームケージに戻し、母親の養育行動を解析した。その結果、母親に生食を投与した群では、子への接触潜時ならびに授乳潜時が延長し、子を移動させる行動と探索行動(床敷にもぐる、立ち上がる等)が増加し、心理的不安の増強を反映していた。特に、子ラットを移動させる回数は、日数を重ねるごとに増加し、心理的不安が増強するものと考えられた。一方、ウシラクトフェリン(bLF)を腹腔内に投与した母ラットの行動を解析すると、生食群にみられた不安関連行動はいずれも減少する傾向にあり、bLFはラットの母子分離による不安状態を軽減し、正常な養育行動を維持するために有効であると思われた。 2.視床下部・下垂体・副腎皮質系に対するLFの影響 8週齢のラットを麻酔し、採血用のカニューレを外頸静脈に留置し、覚醒下でもラットに触れることなく採血できるように処置した。術後5日の回復期間の後、ラットにFoot-shockを与え、血漿中のACTH濃度とコルチコステロン濃度を測定した。その結果、bLFはFoot-shockを与える前にすでにACTHを上昇させる効果を有し、さらにストレス刺激に対する血漿コルチコステロン上昇を早期に抑制することが確認された。また、あらかじめ側脳室にカニューレを留置したラットにストレスホルモンであるCRHを投与してACTH分泌を解析すると、bLFはCRHによるACTH分泌には影響しないことが明らかとなった。 3.LFの腸溶化による腸管からの吸収効率の向上 8週齢のラットを麻酔し、胸管にカニューレを留置して胸管リンパ液を採取できるように処置した。胃あるいは十二指腸内に粉末bLFまたは腸溶性bLFを投与して、リンパ液への取り込み動態を解析した。その結果、腸溶性bLFは胃消化に抵抗し、リンパ液への吸収を約20倍に向上させることが明らかとなった(Exp Physiol,2006)。
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