コラーゲンやトロンビンなどの活性物質による血小板凝集は血小板内濃染顆粒に含まれるADPに大きく依存する。濃染顆粒がわずかしかなく、ADP放出が少ない遺伝疾患Chediak-Higashi症候群(CHS)のウシおよびラット(ベージュラット)の血小板を用いながら、内因性ADPの役割を解析した。平成18年度は以下のような研究成果を得た。 1.コラーゲン刺激によってCHSのウシおよびベージュラットの血小板から放出されるADP量は正常血小板の1/10以下であった。しかし正常血小板においてもコラーゲン刺激によって放出されるADPはそれ単独では凝集を起こす濃度には達しなかった。 2.トロンボキサンA2の活性アナログであるU46619はウシ血小板で高濃度を投与しても凝集を起こさなかった。しかし閾値以下のADPが存在すると有意な凝集を起こした。U46619とADPの協力作用にはCa^<2+>動員が相加的に起こることが重要で、それにはADP受容体のうちP2Y12受容体よりもP2Y1受容体の役割がより重要であった。この点はヒト血小板ではP2Y12受容体の方が重要であるという仮説と対照的である。 3.ADPはコラーゲンとも協力関係を示した。その協力関係には前年度に明らかにしたコラーゲン受容体の一つα2β1のADPによる活性化が関与していた。 4.しかしU46619はコラーゲンとは協力関係を示さなかった。 5.ベージュラット血小板でもCHSウシ血小板と同様、コラーゲンによる凝集が著しく抑制されており、ADP放出も少なかった。U46619は単独では作用を示さなかったが、ADPが共存すると凝集を起こした。 6.コラーゲンはもう一つの血小板内顆粒であるα顆粒からP-selectinを放出させ、血小板膜への発現を増やすが、P-selectin発現はCHSのウシ血小板およびラット血小板で異常は認められなかった。 以上の結果から、コラーゲン、ADP、トロンボキサンA2それぞれは単独では血小板を凝集する能力は低いが、相互に協力することによって凝集を引き起こすことが示された。この三者の中ではADPが中心的役割を果たすことが示唆された。
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