研究概要 |
【目的】:高品質の胚発生に関わる関係因子の発現機構への影響を明らかにすることで、効率的な発育制御条件の解析が期待されている。そこで、本研究の目的として、家畜初期胚における遺伝子発現を中心とした卵子成熟、初期発生に関わる機能的および時期特異的に発現する遺伝子についてRNA干渉(RNAi)による特異的発現制御を行うための効果的な阻害手法の確立と、その制御による機能的遺伝子の果たす役割について解明する。本年度は、従来、初期胚でRNAiに活用されていた1細胞期での顕微注入法に加えて、発生に伴い細胞数が増加した際には顕微注入法は困難であるため、それに対するRNAi手法確立のために体細胞で利用されているリポフェクション法の胚での有効性について検討した。 【方法】体外受精後、卵丘細胞を除去した1細胞期牛胚に哺乳動物遺伝子への発現阻害作用が見られないsiRNA配列に蛍光を標識し、その導入効率を解析するために従来法である顕微注入およびリポフェクション法による化学導入を行った。さらに、初期胚でのRNAiで問題となる、発生が進み細胞数の増加した胚への二本鎖RNA導入による目的遺伝子発現抑制手法についても蛍光標識siRNAをもちいて導入と胚への毒性についての解析を行った。併せて、卵子成熟に関わる卵丘細胞で発現されるCyclooxygenase-2(Cox2)に対する短鎖RNA (siRNA)を設計・作成し培養卵丘細胞に導入し、遺伝子発現抑制効果についてリアルタイムPCRおよびCox-2酵素の産物であるPGF2αの産生についても測定を行った。 【結果および考察】リポフェクションによるsiRNAの導入は、1細胞期,8細胞期,桑実胚および胚盤胞期のどの時期においても透明帯が存在するとsiRNA-リボ複合体はすべて透明帯に吸着され、siRNA胚への導入は不可能であった。しかし、透明帯を除去することで、胚への標識siRNAは発生の進んだ各時期の胚で確実に導入された。リポフェクションによって蛍光標識siRNA導入後、継続して胚を培養したところ、発生の低下は見られず、リポフェクション試薬による胚への有意な毒性は確認されなかった。このことから、透明帯を除去することで、リポフェクション法によるsiRNAの導入が可能であり、また、その際のリポフェクション試薬による発生への毒性は少ないことが示唆された。 牛卵丘細胞にcox-2 siRNAを導入したところ、導入6時間後からcox-2遺伝子発現量の減少が見られ、12時間後には10%以下に減少した。また、培養液中に分泌されたPGF2αは24時間後に有意な低下が見られた。このことは、RNA干渉により抑制されたCox-2の新規遺伝子発現と、その前に存在したCox-2酵素の活性の持続との間に時間差があったことを示唆している。
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