【目的】家畜初期胚における遺伝子発現を中心とした卵子成熟、初期発生に関わる機能的および時期特異的に発現する遺伝子についてRNA干渉(RNAi)による特異的発現制御を行うための効果的な阻害手法の確立と、その制御による機能的遺伝子の果たす役割について解明する。本年度は、昨年度に確立されたリポフェクション法による短鎖二本鎖RNA(siRNA)の効率的な導入手法の検討ならびに、内因陸遺伝子であるDicer遺伝子に対する特異的阻害の検証を行った。 【方法】体外受精後、1、8細胞期、桑実期および翅盤胞期胚から透明帯を除去し、蛍光標識siRNAをマーカーとして、効率的かつ経済的に化学導入を実施するためのプレート容器の検討を行った。また、8細胞期胚及び5日目早実期胚について、透明帯除去後にdicer siRNAを化学導入し、内因性遺伝子発現の阻害作用について検討を行った。 【結果と考察】透明帯除去胚に対する化学的siRNA導入時には、操作性、操作時の割球への影響ならびに、導入時のコストを考慮した効率が重要となる。そこで、本実験結果で検討した4種類のミニウエルの中で、60ウエルミニトレイを用いることで、通常のミニウエルにおける使用量100μ1と比較して一反応量を〜10μ1の少量で実施することができ、かつ割球に少ない影響で胚への導入が可能となった。本課題で確立した微量導入反応系を用いて透明帯を除去した8細胞期および桑実期胚にdicer siRNAを導入し24時間後の発現を検出したところ、8細胞期導入胚では1/5以下に、桑実期胚導入区では1/2以下に発現が抑制された。以上の結果から、リポフェクション法によるsiRNAの化学的導入手法が確立でき、内因性遺伝子発現に対しても有効であることが確認された。本研究結果より、従来1細胞期胚への顕微注入が唯一主要な導入手法出会ったRNA干渉実験系が、発生の進んだ胚にも有効であることが示された。しかし、細胞数が増加し、内側に配置される割球が多くなる時期の胚についての導入効率が下がる傾向が見られたことから、導入時期によっては、顕微注入との併用も必要になることも示唆された。
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