エンドセリンの小動物(イヌ)循環器疾患における役割を明らかにするために、遺伝子およびペプチドレベルから包括的に解析を行った。1)遺伝子レベルでの解析: エンドセリンの3つのisoform(ET-1、ET-2、ET-3)の全長cDNAをクローニングし塩基配列の決定を行った。その結果、イヌの3つエンドセリンisoformのペプチド構造(アミノ酸配列)はヒトのものと一致した。また、臓器におけるmRNAの発現パターンもヒトのものに類似しており、ET-1は肺でET-2は消化管で高発現が認められた。2)循環器疾患の病態へのエンドセリン(ET-1)の関与:種々の循環器疾患(心臓糸状虫症、僧帽弁逆流、三尖弁逆流、心室中隔欠損症、および動脈管開存症)に罹患した犬の血中ET-1濃度を測定したところ有意に高値を示した。特に心臓糸状虫症罹患犬の血中ET-1濃度は6.9±2.7pg/m1で、健常犬の1.4±0.3pg/mlに比べ約4倍の高値を示した。僧帽弁逆流、三尖弁逆流、心室中隔欠損症、および動脈管開存症罹患犬の血中濃度は、それぞれ、4.9±2.3pg/ml、3.6±0.7pg/ml、4.1±1.5pg/mlおよび2.6±1.Opg/mlであった。血中ET-1濃度が高値を示した心臓糸状虫症罹患犬において、各臓器におけるET-1mRNAの発現解析をReal-time PCR法により行ったところ、肺と心臓において発現量の著しい増加が確認された。 ヒトの一部の肺や心疾患において、その病態の増悪に先行して血中ET-1濃度の上昇が観察されている。この上昇は、肺の毛細血管内皮や心筋でのET-1発現量・産生量の増加によるものと考えられており、また、増加したET-1は肺毛細血管壁や心筋壁のリモデリングを惹起させ、病態のさらなる増悪に関与していると考えられている。従って、ヒトの肺や心臓疾患において、血中ET-1濃度は予後判断の1つのマーカーとして有望視されている。今回の研究において、イヌの肺や心疾患においてもヒトと同様にこれらの臓器でのET-1発現量の増加、血中濃度の上昇が認められ、イヌにおいてもET-1の病態への関与が示された。また、血中ET-1濃度がヒトと同様に予後判断マーカーとして用いられる可能性が指摘された。
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