〔研究の背景と目的〕 ボルナ病ウイルス(BDV)はモノネガウイルス目に属する神経向性ウイルスである。BDV感染は、運動障害や行動異常などの神経症状を引き起こす場合がある。発症要因にはウイルス側要因と宿主側要因があるが、本研究では双方の要因および病原性に関わるウイルス遺伝子変異について検討した。 〔結果の概要〕 1.ボルナ病は免疫応答依存性(特にT細胞免疫応答)に発症するとされていたが、マウス馴化株(CRNP5株)を成ヌードラットに感染させたところ、脳炎は認められなかったが、重度の水頭症を示し重篤なポルナ病を発症した。一方、ラット馴化株(BDV-CRP3株)感染では神経症状を伴わない軽度の発症にとどまった。以上の結果から、ボルナ病には免疫応答に依存しない発症機序が存在することが示された。 2.成F344ラットにおけるBDV感染により、脳内のTGF-β1、TGF-β1受容体、およびinhibin/activin βEのmRNAの上昇が認められ、inhibin/activin βCのmRNAは病原性の高いCRNP5株感染においてより上昇する傾向が認められた。 3.ラットにおいて病原性の異なるBDV-CRNP5株とBDV-CRP3株間の遺伝子相違か所(4ヶ所)に着目し、これらの遺伝子変異のラットあるいはマウス脳における継代での出現様式について解析した。その結果、継代する動物種が変わることにより、あるいは継代数の増加により遺伝子変異が出現していた。また、4遺伝子変異のうち3ヶ所はウイルスの病原性に関与している可能性が示唆された。
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