昨年に引き続き、乳牛の分娩後卵巣機能回復異常、特に、初回排卵後の黄体期延長の発生状況とその病態を明らかにし、治療法の検討を行うために、フィールド試験を実施した。北海道、鳥取県および山口県の合計11の牛群の277頭の乳牛における分娩後卵巣機能回復異常の発生率は、54.5%と高く、異常別には、卵巣静止による初回排卵の遅れが31.0%で、次いで、初回排卵後の黄体期延長が11.2%、回復後周期停止が6.1%であった。卵巣機能回復異常群においては、正常回復群に比べ、分娩後100日以内の妊娠率が著しく低く(51.2% vs 26.8%)、黄体期延長群の妊娠率は31.0%であった。卵巣機能回復異常の発生には、産次数、難産、胎盤停滞、分娩後疾患、蹄病、乳タンパク率、乳脂率/乳タンパク率比およびボデイコンデイションスコアーの関与が認められた。次に、県内の1牛群において分娩後初回排卵後の黄体期延長の発生要因の詳細な調査を行った。その結果、難産と胎盤停滞および子宮内膜炎の発生が、黄体期延長の主な原因であることと、分娩後初回排卵が早いものおよび産次数の高いものに黄体期延長の発生が多いことが認められた。さらに、県外の1牛群において、卵巣機能の回復異常の型別に最も適切な治療法を明らかにする目的で、臨床試験を実施した。黄体期延長例に対しては、ホルモン剤による発情・排卵同期化と定時人工授精の実施により、回復正常群と同程度の受胎成績が得られた。以上の成績から、近年、乳牛において分娩後初回排卵後の黄体期延長の発生が増加しており、その主要な原因は、分娩後の子宮感染に関連していることが明らかにされた。また、治療には、ホルモン剤による発情・排卵同期化が有効であることが示唆された。
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