IA-2とそのアナログIA-2βは1型糖尿病の発症に関わる因子で、最近は妊娠に関わる神経内分泌支配にも重要であることが示唆されている。またC. elegansやゼブラフィッシュにも類似のmoleculeが存在するため、広い動物種で保存される生存のために必須の蛋白と予測されている。しかしこれらの働きについて、ヒト以外のほ乳類での情報は少ない。本研究では、広い動物種で保存される神経内分泌の蛋白という性質から、両蛋白のいずれかがイヌの神経内分泌細胞由来の腫瘍のマーカーとなるのではないかと予想し、免疫組織化学的検索とウェスタンブロットによる生化学的検索によって、イヌという動物種の両蛋白の基本的性状、さらに内分泌腫瘍といった疾病に関わる性状について検討した。免疫組織化学的に、IA-2とIA-2βはともに健常イヌの脳の神経網、下垂体前葉細胞、甲状腺傍濾胞細胞、胃腸粘膜クロム親和性細胞、膵の膵島細胞、副腎のクロム親和性細胞などで認められ、IA-2βの染色性はIA-2より強かった。腫瘍組織では下垂体前葉腺腫、髄様癌、胃カルチノイド、膵インスリノーマの腫瘍細胞に認められ、特に膵インスリノーマでIA-2βが強く染色された。脳、下垂体、膵、副腎の各臓器の細胞内分画を抽出し、ウェスタンブロットによる解析を行ったところ、シナプス、核、ミクロゾームにIA-2とIA-2βの特異バンドが検出された。半定量的にIA-2βの発現はIA-2よりも強く、特に下垂体と膵臓では両者のバンドの差は大きかった。イヌもヒトと同様に、両蛋白が内分泌に関わる重要な因子であり、一方でヒトと異なりIA-2βの方が優位に働いているのかもしれない。従ってIA-2βはイヌ内分泌細胞由来腫瘍の有用なマーカーになることが明らかとなった。
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