ミクロの応用の課題については、ケヘチマゴケ、オオサナダゴケモドキ、ハリヒノキゴケの3種のコケの無菌原糸体培養を確立し、日本において植物毒性が問題となる重金属、銅とカドミウムの原糸体成長に対する影響を調査することにより、以下のことが明らかにできた。 i)Cu^<2+>は0.5ppm程度から、Cd^<2+>では2ppm程度から生育抑制が見られる。ii)頂端分裂と分岐分裂では、生育抑制の程度が異なり、成長パターンの変化が見られる。iii)原糸体成長速度と重金属による成長阻害の両方に、種間差が確認できた。 マクロの応用に関しては、液体培養においてスピナーフラスコのように大きな撹絆球を用いて、培地中に強い乱流を作り、剪断応力を働かせることで、比較的短い断片の形で原糸体のサスペンジョン培養ができること、また、こうして得られた原糸体サスペンジョンを、不織布のシートとともにローテーターで回転培養することで、1週間程度の短期間で全面に原糸体が展開した原糸体シートを養成できることを明らかにできた。しかし、植物ホルモンであるBAPの添加で原糸体シートから茎葉体を誘導できるのだが、均質な誘導ができず、また発生する茎葉体の芽の数も少ないため、コケ茎葉体の揃ったコケシートの作成には至っていない。また、原糸体での培養の難易度に種間差が見られ、オオズギゴケでは、わずかな原糸体成長の後すぐにBAP処理無しで茎葉体分化を生じ、原糸体状態での増殖が困難であった。現時点で、原糸体をサスペンジョン培養の形でストック培養し、ローテーターを用いて建物への設置形態に成型するという方法論までは確立できたと言える。一方、成型後の茎葉体分化誘導が十分に確立できておらず、当初想定していた、ex vitroへの移行方法については十分に検討することができなかった。
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