近年、高病原性鳥インフルエンザウイルス、ウェストナイルウイルス、SARSウイルスなど多くの新興感染症が問題となっている。これら新興感染症には、大腸菌O-157などの病原性細菌、ノロウイルスやE型肝炎ウイルス等の病原性ウイルス、Cryptosporidiumなどの病原性原生動物など、水と係わるものが多く含まれ、実際に上・下水の汚染が報告されている。上・下水は先進的技術や設備により処理されるようになってきたが、従来の病原性微生物とは異なるこれら病原性微生物に対する水質および汚泥等の衛生的安全性を確保する手法の確立が急務となっている。 我々は、活性汚泥を用いた下水処理において汚泥中の病原微生物の挙動に関して研究を進め、糞便と共に下水に放出される腸内ウイルスが下水処理に用いられる活性汚泥に吸着、蓄積すること、その吸着は非特異的で、静電相互作用が大きな役割を果たしていること、塩濃度やpHの変化により腸内ウイルスが活性汚泥より放出されることなどを示してきた。 本年度は、微生物と界面との非特異的吸着、特に静電相互作用と疎水性相互作用による吸着に影響を与える因子について検討を加えた。モデルとして用いたポリオウイルスは中性では全体としては負の電荷を持つこと、活性汚泥も同様に中性では全体としては負の電荷を持つこと、従って、両者の間を結ぶ塩橋となる多価陽イオンの存在が吸着に重要であることを確認した。活性汚泥中の主要な負電荷としてカルボン酸基が考えられるが、活性汚泥構成菌であるRhodococcus属細菌が生産するカルボン酸基を含む細胞外多糖の構造に検討を加え、糖鎖構造を決定し、ウロン酸やピルビン酸由来のカルボン酸基が存在することを示した。微生物の環境中の動態にこれらカルボン酸基が与える影響についても検討を加えた。
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