研究概要 |
ラット腹水肝癌細胞AH109Aは酸化ストレスを負荷することにより浸潤能が亢進し、その亢進には活性酸素種により発現が亢進された肝細胞増殖因子(HGF)とHGF受容体であるc-metのオートクライン経路を介した細胞遊走能の変化が関与していることをすでに明らかにしている。そこで細胞膜マイクロドメインを調製し、c-metがマイクロドメイン中に存在していることを確認した。c-metは細胞膜でインテグリンと複合体を形成していることが報告されているためマイクロドメイン中のインテグリンファミリーを確認したところα2,α4,α5,α6,β1が存在していることが明らかとなった。またテトラスパニンファミリーの一種であるCD9の発現も確認された。CD9は膜糖脂質(特にガングリオシド)、インテグリンと複合体を形成することが知られているが、c-metを含めたこれらのタンパク質がマイクロドメイン中でどのような複合体を形成しているかは今後検討する。 つぎに低酸素培養の効果について解析した。5% O_2条件下でAH109Aを培養することで細胞内過酸化レベルが低下し、それに伴って浸潤能も低下した。しかし、その際のHGF分泌量は浸潤能の低下を説明できるほどの変化は示さず、細胞内の過酸化レベルの低下、すなわち活性酸素種の減少がHGF遺伝子発現以外の段階に作用している可能性が示唆された。この結果は細胞外および細胞内の活性酸素種が、細胞膜上のc-metの存在状態に影響し、HGF結合後のシグナル伝達経路を変化させることで浸潤能を制御している可能性を示唆するものであり、酸化ストレスが細胞膜マイクロドメインを修飾し、細胞内シグナル伝達経路を変化させているという本研究の仮説を支持するものと考えており、今後より詳細な解析を進めていく予定である。
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