研究概要 |
線虫Caenorhabditis elegansは、生育環境の悪化に応答して幼虫休眠を行う。環境要因としては、生育密度の上昇に伴う休眠誘導フェロモンの濃度上昇が最上位にある。この幼虫休眠はTGF-β経路およびインスリン経路の制御下にある。さらに、インスリン経路は線虫の成虫寿命を制御することが知られている。報告者は、これまで、線虫のインスリン様分子Ceinsulin-1,-2を同定し、さらに遺伝子破壊線虫の解析により両ペプチドが休眠誘導フェロモンによる幼虫休眠を部分的に抑制する可能性を見出している。本研究では、フェロモンによるインスリン様遺伝子の発現変動に着目している。そこで本年度は、両ペプチド遺伝子の発現部位の同定を行い、TGF-βおよび他のインスリン様分子産生細胞との相対的位置関係を明らかにすることにした。 転写開始部位約4kbを含むCeinsulin-1および-2遺伝子にレポーターであるVenus(改変型GFP)を連結し、マーカー遺伝子と共に線虫に顕微注入を行い、トランスジェニック線虫を作出した。蛍光顕微鏡下で発現部位を観察したところ、両遺伝子は頭部の異なる神経細胞で発現していることが明らかとなった。また、発現部位の相対的位置関係を明らかにするために、化学受用細胞に蛍光物質DiIを取り込ませ、ASK,ADL,ASI,ASH,ASJニューロンを標識した。その結果、これらのニューロンでは両ペプチド遺伝子が発現していないことが判明した。TGF-β様分子DAF-7およびインスリン様分子DAF-28はそれぞれASIニューロンおよびASI/ASJニューロンで発現することから、Ceinsulin-1,-2はDAF-7,DAF-28とは異なる細胞で発現することが明らかとなった。現在、休眠誘導フェロモン存在下での遺伝子発現量の変動を解析中である。
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