研究概要 |
本研究は、超原子価有機アンチモン(Sb)化合物の反応特性を有機合成試薬として活用しようとするものである。 1.10-Sb-4型高原子価有機Sb化合物のα,β-不飽和カルボニル化合物への共役付加およびアルデヒド類への1,2-付加 先に擬10-Sb-4型高原子価Sb化合物12-aryl-N-alkyl-5,6,7,12tetrahydro[c,f][1,5]azastibocine(1)が優れたトランスメタル化剤として機能することを見出すとともに、そのX線結晶構造解析から1のこの反応特性はN-Sb間の分子内相互作用に起因することを明らかにしてきた。今回、1の新たな有機合成試薬としての活用法を検索し、以下の新しい知見(1)〜(3)を得た。(1)Rh触媒下1にα,β-不飽和ケトン及びエステル類を作用させると、1,4-共役付加が起こる。(2)(1)の反応をPd触媒下に行なうと、Heckタイプ成績体が得られる。(3)Rh触媒下1にアルデヒド類を作用させると、1,2-付加成績体が生成する。この反応は、Li試薬やGrignard試薬に敏感な官能基を持つ基質にも適用でき、1のSb上のアリール基はソフトなアリールアニオン供与体として機能する。有機合成化学上、これらの反応はいずれも有用な反応である。 2.10-Sb-5型高原子価有機Sb化合物によるN-アリール化反応 Cu試薬存在下、Ar_5Sb(2)にアミン類を作用させると、N-アリール化が起こることを見出していた。しかし、この2を用いた反応には、相当量のビアリール(Ar-Ar)が副生するという欠点がある。この欠点を取り除くため、今回、Ph_3Sb(OAc)_2(3)、Ph_4SbOAc(4)で同様の反応を試み、これら3種のSb(V)化合物の反応性や反応選択性の違いを系統的に調べた。その結果、反応の簡便さ、進行の容易さ、N-アリール体の収率、副生生物の有無などの点から、4が最も優れていることが分かった。本反応は不活性気体の使用や無水反応操作を必要とせず、空気雰囲気下で容易に進行する特長を持つ。
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