研究課題
基盤研究(C)
近年、複合糖鎖の構造やその生物学的機能が急速に解明され、生物学的現象における糖鎖の役割が注目されるようになってきた。その一方で、さらに詳細な糖鎖機能解明のツールとして、また、糖鎖の構造異常が原因となる疾病の治療薬として、これら糖鎖を生合成する酵素に対する選択的阻害剤の開発も盛んになってきた。糖鎖は、糖転移酵素による糖鎖の伸長と一旦でき上がったオリゴ糖鎖のグリコシダーゼによる加水分解から成る経路で生合成される。グリコシダーゼに対する阻害剤についてはオセタミビルのように医薬品として利用されているものまで存在する。しかし、糖転移酵素に対する阻害剤については、100種以上の糖転移酵素がクローニングされている現在でも実用的な阻害剤は開発されておらず、最近になって漸く阻害活性の強いものが開発されてきたと言える。そこで、私たちは、今回、さらに実用的な糖転移酵素に対する阻害剤の開発を目指し、糖転移酵素が糖供与体基質として利用する糖ヌクレオチド類似体の効率良い合成法を確立することを目標とし、研究を開始した。特に、糖ヌクレオチド類似体としては、nikkomycinを始めとするペプチド性糖ヌクレオチドが既に医薬品・農薬として実用化されていることから、ペプチド性糖ヌクレオチドの1つであるpolyoxin類を標的分子として選んだ。また、本研究を、特定の糖転移酵素に対して高い選択性も持つ「二基質阻害剤」への開発へと展開するために、糖転移酵素が受容体基質として利用するオリゴ糖鎖の新合成法も開発することとした。その結果、著者らが開発したL-スレオニンアルドラーゼを利用した酵素的アルドール縮合を鍵反応とし、polyoxin Cの短工程(形式)合成に成功した。さらに、著者らの研究室で開発している無臭チオールを用いて、癌転移に関与しているN-アセチルグルコサミン転移酵素の受容体三糖の合成にも成功した。
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