グアニンのアルコール摂取による一損傷体であるサイクリックプロパノグアニン(CPr-Gua)の電解酸化を分光学的に追跡し、そこで生成する酸化生成物の同定を行いました。一般にCPr-Guaのようなアルキル化グアニンは酸化的損傷を受けやすくなるため、その酸化損傷体の構造は、CPr-Gua形成の毒性を解明する重要な手掛りになります。ここでは、反応環境として水系(中性リン酸緩衝液)と非水系(アセトニトリル溶液)の双方を検討しました。水系は、生体内の標準的な環境として、非水系は、水の酸化活性種による基質酸化への関与を除外し、最近の注目されている、DNA鎖からの電子引き抜きから始まる塩基損傷機構の起こりうる場としての意味を持ちます。 薄層電解分光法による各電解電位における紫外吸収スペクトルの推移は、水系と非水系で有意に異なりました。非水系では、250nm付近の極大吸収波長で明確なレッドシフト観測され、電解生成分子における共役鎖の伸張が示唆されました。水系でもわずかなレッドシフトを観測しましたが、非水系とは異なる反応が主であることが示唆されました。電解溶液を逆相HPLC/ESI-MSで分析した結果、水系ではCPr-Guaより分子量の小さな分解成分が主に観測されました。これに加えて、副成分としてCPr-Guaの二量体が含まれていました。NMR及び高分解能ESI-MSによる分析の結果、異なる部位で連結した構造であり、片方のCPr-Guaから2電子1プロトン引き抜き結果生じるカルボカチオンと未酸化のCPr-Guaから生じたと考えられました。この反応は、HOMO・LUMOエネルギー計算結果からも支持されました。一方、非水系では、この二量体が主成分として生成しており、スペクトルの明確なレッドシフトはこのためと判りました。生体内での酸化損傷を考える場合、水系及び非水系双方の生成物が重要と思われます。
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