研究概要 |
糖鎖は核酸、タンパク質に次ぐ第3の鎖と言われ、生体内で重要な役割を演じている。その中でもN-結合型糖鎖は細胞の表面層に存在し、細胞の癌化や転移、造血機能などに深く関与しており、機能解明のため簡便な分離検出法の開発が強く求められている。そこで本研究では、糖タンパク質から切り出された糖鎖に酵素Endo-Mの糖転移反応を利用し、蛍光誘導体化を行い、糖鎖を傷つけることなく構造を保持したまま分析する方法の確立を目的とした。また本法による実試料への応用も合わせて検討した。 Endo-Mによる酵素反応の受容体として7種類の蛍光誘導体を新規に合成した。次いで、Disialo-Asnおよび蛍光受容体のEndo-Mによる転移率を蛍光受容体の減少率を指標とし測定した。その結果、蛍光受容体の転移率はNDA-Asn-GlcNAc>DBD-Asn-GlcNAc≧Fmoc-Asn-GlcNAc>NBD-Asn-GlcNAc≧DMEQ-Asn-GlcNAc>DNS-Asn-GlcNAc>PS-Asn-GlcNAc>FITC-Asn-GlcNAcとなった。転移率が最大であるNDA-Asn-GlcNAcを用いてDisialo-AsnとEndo-Mによる転移反応を行い、HPLCおよびCEにより蛍光受容体と生成物とを分離後TOF-MSにより転移生成物(Disialo-Asn-NDA)の構造を確認することができた。次に、本法による実試料への応用を試みた。実試料としてオボアルブミンからプロナーゼ処理で切り出された糖ペプチドの混合物を使用しEndo-Mによる転移反応を行い、糖鎖の構造解析を行った。その結果、(Man)_5(GlcNAc)_4,(Man)_4(GlcNAc)_4,(Man)_5(GlcNAc)_2),(Man)_6(GlcNAc)_2等、オボアルブミン中の数種の糖鎖が確認できた。 本法は酵素Endo-Mの働きを利用し、糖タンパク質や糖ペプチドから糖鎖の切り出し、蛍光誘導体化を行い、糖鎖を傷つけることなく構造を保持したまま短時間で分離することができた。得られた糖鎖転移生成物はESI-MSやTOF-MS等により容易に構造解析ができるため、本法は糖鎖解析法の一手段となるものと期待される。
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