研究概要 |
本研究の目的は、オリゴアルギニンを脂質分子に結合した化合物を合成し、それで修飾したリボソームを調製し、培養細胞での遺伝子導入効率、さらに担癌マウスを作製し、遺伝子発現を評価することによって、非エンドサイトーシス取り込み機構の新規遺伝子導入リポソームベクターを開発することである。 オリゴアルギニン脂質(Arg(n))としては、Arg(n)の鎖長がn=4,6,8,10で人工脂質に結合したものと、オリゴアルギニンと人工脂質分子を結ぶリンカーにポリエチレングリコール(PEG、分子量2000)を用いたものの2種類を用いた。遺伝子ベクターとしては、Arg(n)で修飾したリボソームとDNAの複合体と、DNAをプロタミンでコンパクションした後リボソームに封入したArg・L(protamine1DNA)と、Arg被覆ベクターとして(rotamine1DNA)とArg水溶液を混合して調製したArg(protamine1DNA)を用いた。遺伝子の発現はGFP(greenfluorescentprotein)、または、ルシフェラーゼをコードした遺伝子を用いて、蛍光顕微鏡、またはルシフェラーゼ活性から評価した。 HeLa細胞では、どのベクターにおいてもArg10がArg4より有意に高い活性を示した。Arg4とArg10修飾リポソームベクターを用いて正常マウスと担癌マウスにおいて、静脈内と腫瘍内投与によって、遺伝子の発現を評価した。HeLa細胞の担癌マウスの腫瘍内投与では、Arg4被覆ベクターがArg10のベクターより有意に高い遺伝子活性を示し、これは市販品の遺伝子ベクターであるin vivo jetPEIの約20倍の活性であった。Argの最適鎖長においては、in vivoの結果はin vitroの結果の逆であった。 マウスに対する静脈内投与では、リボソーム自体は肝臓、脾臓、肺に集積が見られ、遺伝子の発現は肝臓、脾臓で観察された。以上よりオリゴアルギニン脂質の中で、in vitroではArg10のベクターが、in vivoの腫瘍内投与ではArg4のベクターが遺伝子導入製剤として有用であることが示唆された。また、その取り込み機構は両者で異なり、Arg10ベクターではマクロピノサイトーシス、Arg4ベクターでは従来のエンドサイトーシスである可能性が示唆された。
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