本研究は、優れた高分子薬物送達キャリアであるスマートハイドロゲルpoly(methacrylic acid) grafted with poly(ethylene glycol)に細胞膜透過性ペプチドをハイブリッドさせることにより、より高いバイオアベイラビリティ(BA)を保証するバイオ医薬の経口製剤化技術を完成させることを最終目標としている。平成17年度はまず細胞膜透過性ペプチド(CPP)による高分子薬物の吸収促進効果およびその機構について検討を行った。 1)CPPによる高分子薬物の小腸吸収性に及ぼす影響:本研究ではCPPとしてオリゴアルギニン(アルギニン6、8、10個結合体)、HIV-1 Tat、HIV-1 Revおよびペネトラチンを用いて、高分子薬物の小腸吸収促進効果について検討を行った。その結果、塩基性ペプチドはインターフェロン、リュープロライドおよびFITCラベル化デキストラン4000のラット小腸からの吸収性に影響しなかった。一方、インスリンに対しては強い吸収促進効果を示し、特にD体オクタアルギニンおよびペネトラチンはインスリンの小腸吸収性を著しく改善した。 2)CPP封入スマートハイドロゲルのin vivo経口投与によるインスリン吸収促進効果の検討:オリゴアルギニンは、スマートハイドロゲルに添加量の約50%が封入され、また中性条件下ではハイドロゲルの膨潤とともに速やかに放出されることが示された。オリゴアルギニンおよびインスリン封入スマートハイドロゲルをラットに経口投与した結果、インスリンの経口BAが著明に改善されることが確認された。 3)オリゴアルギニンによるインスリン吸収促進効果の機構解明:Ussing chamber法において低温条件下(4℃)では37℃条件下に比較して蛍光ラベル化D-Arg-6の小腸粘膜透過性が有意に低下したことから、D-Arg-6は主に能動輸送を介し粘膜を透過している可能性が示唆された。また、ヘパリン共存下においてD-Arg-6の透過の有意な低下が認められることから、細胞膜透過能と同様に、細胞表面のグリコサミノグリカンへの結合が塩基性ペプチドの粘膜透過の第一段階である可能性が示唆された。
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