本研究は、優れた高分子薬物送達キャリアであるスマートハイドロゲルpoly(methacrylic acid)grafted with poly(ethylene glycol)に細胞膜透過性ペプチド(CPP)をハイブリッドさせることにより、より高いバイオアベイラビリティ(BA)を保証するバイオ医薬の経口製剤化技術を完成させることを最終目標としている。以下に研究期間中に得られた知見を示す。 1)CPPによる高分子薬物の小腸吸収性に及ぼす影響:8種類(アルギニンに富むペプチド2種、両親媒性ペプチド4種、プロリン-塩基性アミノ酸-疎水性アミノ酸の配列を持つペプチド1種および未知のペプチドをランダムに配列させたペプチド1種)のCPPの中で、ペネトラチンがインスリン消化管吸収性を強くの膜透過性ペプチドへの親和性の評価:薬物封入性:インスリンおよびGLP-1の封入率はそれぞれ約90%および55%、またオリゴアルギニン(R6)およびHIV-tatでは約50%となった。薬物放出性:インスリンおよびCPPはPBS中でハイドロゲルからの速やかな薬物放出が認められた。薬物吸収性の評価:in vivo吸収実験の結果、吸収促進作用の優れたCPPの併用はスマートハイドロゲルによるインスリンデリバリー能を上昇させる手法となることが示唆された。 3)オリゴアルギニンによるインスリン吸収促進効果の機構解明:D-Arg-6は主に能動輸送を介し粘膜を透過している可能性が示唆された。また、細胞表面のグリコサミノグリカンへの結合が塩基性ペプチドの粘膜透過の第一段階である可能性が示唆された。 4)膜透過性ペプチドによる高分子薬物吸収促進機構:表面プラズモン共鳴(SPR)を利用した薬物-CPP間相互作用の評価を行った結果、インスリン分子に対する各オリゴアルギニンの結合能の差異が、インスリン吸収促進効率を決定している可能性が示唆された。さらに、薬物およびCPP間の結合比がCPPによる消化管薬物吸収促進作用の発現を決定する因子となっていることが示唆された。
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